東京高等裁判所 昭和29年(う)2555号 判決
被告人 宇賀神カツ
〔抄 録〕
論旨第一点について。
原判決はその理由中に罪となるべき事実として起訴状記載の公訴事実と同旨の事実即ち被告人が法定の除外事由が無いのに拘らず一、昭和二十八年五月頃宇賀神隆に対し覚せい剤を譲渡し二、同年十一月頃福田文男に対し覚せい剤を譲渡し三、昭和二十九年二月一日頃覚せい剤を所持した事実を認定し、これに対する法令の適用として、右一及び二の事実につき昭和二十九年法律第百七十七号覚せい剤取締法附則第二項により右改正前の覚せい剤取締法第十七条第一項第四十一条第一項第四号の規定を挙示していることは所論の通りであるが、右覚せい剤取締法第十七条第一項は、覚せい剤製造業者の覚せい剤譲渡行為を規制する法規であるところ、原判決挙示の各証拠によつては、到底原判決が、被告人を覚せい剤製造業者であると認定したものとは認められないから、原判示各覚せい剤譲渡の所為については、同条項を適用すべきでなく、一般人の覚せい剤授受を規制する同条第三項の規定を適用すべきこと勿論であつて、この点において原判決は明らかに法令の適用を誤つているものといわねばならない。しかし、原判決は右各所為をいずれも同法第四十一条第一項第四号に該当するものとして処断しているのであつてこれを同法第十七条第一項違反なりとするも、同条第三項違反なりとするも行為の主体を異にするのみで行為の態様は同一であり、いずれも同法第四十一条第一項第四号に該当する犯罪であつてこれに対する法定刑も同じであるから、右法令の適用の誤りは、結局判決に影響を及ぼさないものと認むべく、従つて原判決を破棄するに当らない。論旨は理由がない。